いつかの正月のショートショート

ライフ

いつかの正月休みに書いたらしいショートショート(短い小説)が出てきたので載せてみます。
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「更生プログラム」

20xx年、IT機器依存症患者の社会復帰を目的に、
日本各地に「IT隔離施設」が建設された。

患者たちは皆、日常生活に大幅な支障をきたすほどに
SNS、ゲーム、ネットニュースetc.に没頭する、重篤な依存症状を呈しており、
日本社会は深刻な人手不足に陥っていた。

「この施設は強力な電波妨害機能を搭載し、
一文字のメールも送受信不能である」

説明を受け、患者はみな絶望の表情を浮かべた。

その施設ではインターネットはもちろん、
電話やポケベルの類までが使用不可。
手書きの手紙が唯一の通信手段であった。

用意されている娯楽といったら
トランプ、将棋、オセロ、麻雀、
すごろく、独楽、かるた、
入所者対抗カラオケ大会。

敷地内のグラウンドでは
野球、サッカー、たこあげができる。

入所初日は不満たらたら
個室に籠城を決め込む患者が大半だが、
それもだいたい3日、長くて1週間までで、
次第に娯楽室に集うようになっていく。

物心つく前からスマホで遊んできた世代では、
ババ抜きのルールすら知らないことは珍しくない。

しかしながら、どの患者も
ジョーカーを巡る心理戦に興ずるまでに
さほど時間はかからなかった。

「うわー強すぎですよスズキさん!
ぜったい初めてじゃないでしょ!」

「もう一回もう一回!」

食事は3食、昼寝付き。
全身マッサージも受け放題。

医学的知見に基づいたプログラムのはずが、
退所予定日にはなぜかみな口を揃えて
「まだ更生が必要です!」
と訴えた。

各業界における人手不足は
未だ解消の目処が立たない。

(cocoparisienneによるPixabayからの画像)

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